デザイン思考でキャリアの選択肢を広げる:ブレインストーミングと発散的思考の活用法
キャリアの方向性に迷いや閉塞感を感じている方は少なくないでしょう。特に、専門スキルを持つWebデザイナー、クリエイター、フリーランスの方々にとって、自身の「強み」や「提供価値」を再定義し、キャリアの安定や成長へと繋がる新たな道筋を見つけることは重要な課題です。
本記事では、デザイン思考のプロセスの中でも特に「発想(Ideation)」のフェーズに焦点を当て、既成概念にとらわれずにキャリアの可能性を広げる具体的な方法論を解説します。デザイン思考を応用することで、現状の課題を打破し、未開拓のキャリアパスを発見するためのヒントを提供することを目指します。
デザイン思考における「発想(Ideation)」フェーズとは
デザイン思考は、ユーザー中心の視点から課題を発見し、解決策を創造するための思考法です。その中心的なプロセスの一つである「発想(Ideation)」フェーズは、特定された課題やニーズに対して、できるだけ多くの多様なアイデアを生み出す段階を指します。
このフェーズの目的は、アイデアの「質」よりも「量」を重視し、批判や制約にとらわれずに自由な発想を促すことにあります。一見非現実的に思えるアイデアの中にも、後の具体的な解決策へと繋がるヒントが隠されていることがあります。キャリア設計においては、自身のスキル、経験、興味を軸に、多様な働き方や事業の可能性を探索する段階と捉えることができます。
キャリア設計に応用する発散的思考の原則
デザイン思考の発想フェーズでは、いわゆる「発散的思考」が求められます。これは、一つの問いに対して多角的にアプローチし、可能な限り多くのアイデアを広げていく思考法です。キャリア設計に応用する際にも、以下の原則を意識することが重要です。
- 批判をしない(Judgment Free): アイデアの良し悪しを評価せず、まずは全てを受け入れます。自分の内なる声や他者の意見に対しても、否定的な判断を保留することが大切です。
- 量にこだわる(Go for Quantity): 質の高いアイデアは、多くのアイデアの中から生まれるとされます。目標とするアイデア数を設定し、達成に向けて発想を広げてみましょう。
- 自由な発想を歓迎する(Encourage Wild Ideas): 現実離れしたアイデアや、突拍子もない考えも歓迎します。こうした自由な発想が、ブレークスルーを生むきっかけとなることがあります。
- アイデアを結合・発展させる(Build on Others' Ideas): 既存のアイデアから新たな発想を得たり、複数のアイデアを組み合わせたりすることで、より洗練されたアイデアへと発展させることができます。
これらの原則を意識することで、自身のキャリアに対する固定観念を打ち破り、想像もしていなかったような新しい可能性を発見できるかもしれません。
具体的な発想ツールと活用法
ここでは、キャリア設計に応用できる具体的な発想ツールとその活用法を3つご紹介します。
1. ブレインストーミング(Brainstorming)
ブレインストーミングは、一人でも複数人でも行える最もポピュラーな発想技法です。特定のテーマや問いに対し、思いつくままにアイデアを出し尽くします。
キャリアにおける活用例: まず、具体的な「問い」を設定します。例えば、Webデザイナーであれば、以下のような問いが考えられます。
- 「私のデザインスキルを使って、他にどんな形で価値を提供できるだろうか?」
- 「現在のクライアントワーク以外で、自分の強みを活かせる新しいビジネスモデルは何だろう?」
- 「もし時間やお金の制約が一切なかったら、どんな働き方をしてみたいか?」
これらの問いに対し、マインドマップを作成したり、ポストイットに書き出したりして、制限なくアイデアを羅列していきます。例えば、「Webデザインスキル」という切り口から、「デザイン講師」「UI/UXコンサルタント」「デザインツールの開発」「デザインコミュニティ運営」「地方創生のデザインプロジェクト参画」など、多岐にわたるアイデアを出してみましょう。
2. SCAMPER(スキャンパー)法
SCAMPER法は、既存の製品やサービス、アイデアを異なる視点から再考し、新しい発想を生み出すためのフレームワークです。自身のスキルや経験を「既存の要素」と見立てて応用することで、新しいキャリアの可能性を探ることができます。
- S (Substitute: 置き換える): 現在のスキルや役割を、別の業界や環境に置き換えたらどうなるか。
- 例: Webデザイナーのスキルを、教育分野や医療分野のデザインに置き換える。
- C (Combine: 組み合わせる): 複数のスキルや興味、経験を組み合わせたら、どんな新しい価値が生まれるか。
- 例: デザインスキル × プログラミングスキル → 独自サービスの開発。デザインスキル × 文章力 → デザイン専門ライター。
- A (Adapt: 応用する): 別の分野の成功事例やコンセプトを、自分のキャリアに応用できないか。
- 例: 顧客体験(CX)デザインの考え方を、フリーランスとしての顧客コミュニケーションに応用する。
- M (Modify/Magnify: 修正・拡大する): 自分の得意なことを修正したり、特定の側面を拡大したりしたら、どうなるか。
- 例: 特定のスタイルに特化したデザインサービスを「拡大」し、ニッチな市場で第一人者を目指す。
- P (Put to other uses: 他の用途に使う): 自分のスキルや知識を、現在の仕事とは全く異なる用途で使えないか。
- 例: クライアント向けのデザインスキルを、ボランティア活動や社会貢献プロジェクトに応用する。
- E (Eliminate: 取り除く): 自分のキャリアにおいて、不要な要素や制約を取り除いたらどうなるか。
- 例: 特定の業務プロセスや、時間的制約を取り除くことで、より自由な働き方を発想する。
- R (Reverse/Rearrange: 逆にする・再配置する): 自分のキャリアの前提を逆転させたり、順序を入れ替えたりしたらどうなるか。
- 例: 「仕事を探す」のではなく、「自分の提供価値から仕事を作る」と逆転して考える。
SCAMPER法は、既存の自分を分解し、再構築することで、新たな自己理解やキャリアの可能性を引き出す強力なツールです。
3. ラピッド・アイデア生成(Rapid Idea Generation)
ラピッド・アイデア生成は、時間を区切って短時間で大量のアイデアを出すことを目的とした手法です。たとえば、「5分間で、自分のデザインスキルを活かした新しいサービスを10個書き出す」といったように、具体的な時間と目標数を設定します。
この方法の利点は、深く考え込む時間を排除し、直感的な発想を促す点にあります。思考の停滞を避け、アイデアを「ひねり出す」のではなく、「流れ出す」感覚を養うことができます。定期的に実践することで、発想力を鍛え、アイデアの枯渇を防ぐことにも繋がるでしょう。
アイデアの「量」から「質」へ:収束的思考への架け橋
発散的思考によって多様なアイデアが生まれたら、次のステップはこれらのアイデアを評価し、具体的な行動へと繋がる「質」の高いものを選び出す「収束的思考」へと移行することです。
大量に生成されたアイデアの中から、実現可能性、自身の興味・情熱、市場のニーズ、そして最終的なキャリアビジョンとの整合性などを基準に、優先順位をつけて絞り込んでいきます。この際、マトリクス分析や多角的な視点での議論が有効です。
最も重要なのは、発想したアイデアを単なる思考で終わらせず、次の「プロトタイピング」や「テスト」のフェーズへと進めることです。デザイン思考は、アイデアを具体的な形にし、検証することで初めてその価値を発揮します。
まとめ
デザイン思考の「発想(Ideation)」フェーズは、キャリアの選択肢を広げ、新たな可能性を発見するための強力なアプローチです。ブレインストーミング、SCAMPER法、ラピッド・アイデア生成といったツールを活用し、既成概念にとらわれずに多様なアイデアを生み出すことで、自身のキャリアに対する視野を広げることができます。
発散的思考を通じて得られたアイデアは、次なる具体的な行動へと繋がる貴重な羅針盤となります。今日からぜひ、ご紹介した発想ツールを自身のキャリア設計に応用し、未来を切り拓く一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。